養育費無しの条件で離婚した夫婦だったが…

  • 夫A氏

    40代半ばの会社員。

  • 妻Bさん(相談者)

    30歳後半で一般職会社員。

  • 子どもは2人

    5歳と8歳の男の子。

 

あぁ、今月は赤字か。
ホント、生活が苦しい。
『養育費はいらない』なんて言うんじゃなかった!

 

 

元妻Bさんは、家計簿をつけながらため息をついた。
ちょうど、8歳の子どもが地域の野球チームに入ることになり、道具一式を買ったのだ。
ユニフォーム、グローブ、バット、靴、靴下などで計3万円。

 

 

元妻Bさんの手取りは約18万円。
家賃・光熱費・通信費で8万円かかるので、10万円でその他全てを賄わなければならない。

 

 

市役所からの補助があるとは言え、いつもぎりぎりの生活だ。
その生活で、突発的とは言え3万円の出費はかなり痛い。

 

 

お金に困った時、元妻Bさんは元夫との離婚を急いだことを後悔している。

 

 

当時、元夫からのモラハラ(精神的虐待)や暴力に耐えられず、子ども2人を連れて家を出た。
元夫は謝ってきたが、やり直す気持ちは全くなく、離婚を請求した。

 

 

元夫は、離婚やむなしと悟ると、態度を変えて強気に出てきた。
「養育費無しなら、離婚に合意してあげても良い」と言ってきたのだ。

 

 

この男は、自分の子どものための生活費を払おうとしないのか。
私はなんて男と結婚したのだろう。

 

 

もはや、一刻も早く離れたかった。
そのため、『養育費は無し』という条件で離婚した。

 

 

 

あれから3年。
生活はだんだん苦しくなる一方だ。

 

 

上の子は、小学校に入ってからお金がかかるようになった。

 

 

スポーツや遊びで、細かい出費が続く。
服もどんどん買っていかないといけない。
しかも、授業参観やPTAなどで私の時間も取られる。

 

 

下の子は、至れり尽くせりの保育園なのでまだマシだ。
だが、2人の子どもを見るのはかなり大変なので、仕事を早く切り上げる必要がある。
そのため、残業代はほとんど無いため給料は少なくなる。

 

 

仕事・家事・育児で自分の時間なんて全く無い。
ほんと、子どものためだけの人生だ。
それなのに、ギリギリの生活を送っている。

 

 

体力は自分の時間を犠牲にすることでなんとかなる。
しかし、金銭的な部分は限界がある。

 

 

シングルマザーがこんなに大変だなんて。

 

 

このまま2人の子どもが成長していくと、はたして生活していけるだろうか。

 

 

上の子は、そろそろ習い事を始めさせる時期だ。
周りの子は、そろばんや公文式などは通い始めている。
中には、英語やプログラミングなどを習い始めている子もいる。
せめて、最低限の教育は受けさせてあげなければ。

 

 

しかし、ホント生活が苦しい。
貯金などほとんどできていない。

 

 

今の会社よりいい条件の職場など、まずない。
あったとしても、シングルマザーの私を雇う企業など皆無だろう。

 

 

かと言って、今の会社でこれ以上残業を増やすわけにもいかない。
ましてや、副業のアルバイトなどもやる時間が無い。

 

 

実家にも頼れない。
実家の経済状況は十分知っている。
今でもカツカツなのに、これから介護費用がかかる。

 

 

あぁ、生きるだけでこんなにお金がかかるなんて。

 

 

だが、子どもたちに理不尽な思いはさせたくない。
しかし、私の努力だけでなんとかできる問題ではない。

 

 

こうなったら、元夫にお願いするしかないか。
悔しいけど、子どもたちに辛い思いをさせるわけにはいかない。

 

 

元夫は、中堅企業勤務で年収約500万円。
会社も安定している業種だ。

 

 

私の年収は300万円。
子ども2人。

 

 

算定表から、本来の養育費は、4〜6万円となる。

 

たくさん欲しいという訳ではない。
下限の4万円でいいから負担してほしい。

 

だが、離婚時に『養育費はいらない』と合意してしまっている。
この合意があるから、今さら欲しいと言っても無駄かな。

 

 

もしかしたら、弁護士なら何か良い方法を知っているかもしない。
話だけでも聞きに行ってみよう。

この事例の争点

子どもが幼い頃に離婚をすると、母親はシングルマザーとして育てて行くことになります。
ただ、子どもが成長するに連れて生活は苦しくなっていくのを感じます。

 

 

幼い頃の出費は限られています。
しかし、小学生以降は毎年出費が増えていきます。
塾などの習い事を始めると、毎月一定額の負担となり続けます。

 

 

多くの家庭は今の生活で精いっぱいで、将来どのくらいの出費が増えることに気づきません。しかし、夫がいる家庭では、子どもへの出費が増えても、夫が会社での昇進や年功序列で給料が増えるので、生活費はやりくりできます。

 

 

しかし、シングルマザーはそうはいきません。世の中はまだまだ男性中心です。女性が働いても、一般職など職種は限られ、大きな年収増加は期待できません。また、子どもの世話のため多忙な仕事には就けません。

 

 

そのため、子どもが成長して支出が増えると、どんどん生活が苦しくなっていくのです。

 

 

元妻Bさんは、夫と離婚してシングルマザーとなる道を選びました。
さらに、元夫と離婚時に『養育費はいらない』と合意しています。
今まで養育費は受け取っていません。

 

 

離婚当初はそれでも生活できましたが、日に日に生活が苦しくなると、夫しか頼れる人がいないことに気付きました。

 

 

一方、夫としては、『養育費は無し』として合意しているのに、いまさら元妻が養育費を請求してくると驚くでしょう。もちろん、子どものことを思って支払う人もいるでしょうが、『養育費はいらない』という約束を盾に反論する人は一定数いるはずです。

 

 

この場合、元妻と子どもは、父から養育費を受け取ることはできないのでしょうか?

 

 

では、この事例に似た過去の判例を紹介します。

 

判例の紹介

判例@

札幌高等裁判所

昭和43年12月19日

家裁月報21巻4号139項

離婚時、監護親となる母は「慰謝料を請求しない」という旨の念書を父に差し入れた。しかし、後に子どもから父に対して扶養として養育費を請求した。

 

札幌高裁は、
・「養育費を請求しない」ということが将来の扶養の請求権を放棄であれば、民法881条により効力が無いことは明らか
・「養育費を支払わない」という合意が父母間でなされていても、子どもが必要に応じて子どもから親に請求することはなんら妨げられない
として、養育費の支払いを認めた。

 

※民法881条
【扶養請求権の処分の禁止】扶養(経済的援助など)を受ける権利は、処分することができない。

 

判例A

大阪家庭裁判所

平成元年9月21日

家裁月報42巻2号188項

離婚調停時、夫は無職であり、「養育費を請求しないのであれば、離婚に応じて良い」という意向を示したため、「今後相互に名目のいかんを問わず、金銭上、財産上の請求をしない」と合意して離婚した。

 

その後、父は定職に就いて経済的に安定した。一方、母は最低限の収入しかない状況となり、母から父に養育費を請求した。

 

大阪家裁は、事情の変更を認めて、養育費の請求を認めた。

 

結論

離婚時、父母間の力関係などで「養育費は請求しない」との合意がなされる時があります。例えば、母が早く離婚したい場合などに、養育費を諦めなければなかった場合などです。

 

 

しかし、母親とは言え、『子どもが父親に養育費(扶養料)を請求する権利』を放棄することが認められていません。したがって、例え父母が離婚時に『養育費は無し』と合意していても、子どもが父親に養育費(扶養料)を請求することはできます。

 

 

子どもが養育費(扶養料)を請求した際は、個々の事情にもよりますが、過去の判例からは認めれています。

 

 

したがって、今回の相談例でも、養育費はいらないと合意していますが、子どもからの請求は認められるでしょう。

 

養育費はいらないと合意していても、子どもからの請求は認められる!