不倫の相談事例

  • 夫A氏は、50代前半の会社員。
  • 妻Bさんは、40歳半ばで専業主婦。(相談者)
  • 子どもは娘1人で、大学卒業と同時に一人暮らしを始めた。

 

妻Bさんは、ここ5年ほどある悩みを抱えている。
夫は、週に2,3日しか家に帰ってこないのだ。
どこに行っているかは知っている。

 

夫には愛人がいるのだ。
30代後半のCさん。
以前夫は、酔った勢いで不倫を認めた。
メールのやり取りも実際に見せてきた。

 

他の女性と関係を持つなんて考えられない。
ましてや、それを堂々と妻に言うなんて。
夫の不倫を知った瞬間、正直離婚を考えた。

 

だが、Bさんは離婚に踏み切れなかった。

 

Bさんは結婚して以来ずっと専業主婦だ。
息子が高校生の時に少しアルバイトをしていたくらいだ。
仕事としてのキャリアは皆無だ。

 

職歴がほとんど無い40代女性を雇う会社なんて、ほとんど無い。
雇ってくれそうなのは派遣社員やアルバイトなどで、とても安定した仕事とは言えない。

 

それに、夫の収入は比較的高い方だ。
普段の生活で衣食住に不自由したことは無い。
夫の不倫以外に、普段の生活に不満は全くない。
普段話す際は、とても優しいし居心地がいい。
だが、もし離婚したら夫A氏は妻Bさんの生活を保障しないだろう。

 

夫の不倫は許せない。
女としてこれほどの屈辱は無い。
しかし、毎日安心して生きていくことを優先しなければ。
認めたくないが、認めざるを得ない日々が続いた。

 

Bさんは、夜は早めに寝るようになった。
好きなドラマがあっても、録画して夜は見ない。
なぜなら何よりも夜が嫌いなのだ。
夫が帰ってこない夜、夫がどこで何をしているのか考えたくない。
早く寝れば、イヤな想像しないで済む。

 

ある日、夫A氏は仕事後に家に帰ってきた。
3日振りに夫が家に帰って来て、妻Bさんはうれしかった。
作っておいた料理をテーブルに並べて、二人で夕食を取った。

 

夕食を食べ終わると、夫A氏が
神妙な面持ちでBさんに話しかけた。

 

夫A氏
「すまないが俺と離婚してくれないか?
どうしても不倫相手と結婚したいんだ」

 

妻Bさんは、頭の中が真っ白になった…。

 

 

 

翌日、妻Bさんは夫の出勤後に、ある場所に向かっていた。
そこへ向かっている時も、気持ちが穏やかではない。

 

昨晩夫A氏から離婚を切り出されてから、頭がまともに働かない。
夕食の片づけをして風呂に入って寝たが、それ以外の記憶は曖昧だ。

 

夫A氏とはどうしても離婚したくない。
夫の不倫は辛い。
しかし、離婚後の不安定な生活はもっと辛い。

 

しかし、まさか不倫している夫からの離婚を切り出してくるなんて。

 

そんな理不尽が許されるのか!?
この世には、神も仏もいないのか!?

 

Bさんは、祈るような気持ちで弁護士事務所を訪れたのだった。

 

この事例の争点

多くの場合、不倫が配偶者にバレて、配偶者から離婚を切り出される場合が多いです。しかし、中には不倫していた側が不倫相手と結婚したために、配偶者に離婚を切り出す場合もあります。

 

この事例は後者の例です。
不倫していた夫A氏が、全く非の無い妻Bさんに離婚を請求しているのです。

 

この事例における妻Bさんは、散々な状況です。

 

夫は不倫をしていて、自ら不倫を認めています。
もちろん妻Bさんとしては、不倫など許せるはずがありません。

 

しかし、妻Bさんは悩んだ末に、夫の不倫に耐える代わりに、生活の安定を選びました。
女性としてのプライドよりも、確実で安定的な生活を選んだのです。
この時点でも、相当辛い判断だったと思います。

 

しかし、そんな妻Bさんに対して夫A氏は、悪魔とも言えるような宣告をします。
不倫相手と結婚したいがために、妻Bさんに離婚を請求したのです。

 

この夫A氏に離婚請求は、完全に身勝手な行為です。
はたして、不倫していた夫A氏からの離婚請求は認められるのでしょうか?

 

では、この事例に似た過去の判例を紹介します。

 

有責者からの離婚請求は、過去に何度も裁判が行われたので判例はたくさんあります。それらの判例の中でも、特に有名な判例を紹介します。

判例の紹介

判例@

最高裁判所

昭和27年2月19日決定

民集6巻2号110項

夫が不倫女性と同棲して子供まで作り、その不倫相手と再婚するために妻に離婚請求した事例です。この時、最高裁判所は「もしかかる請求が是認されるならば、妻は俗にいう踏んだり蹴たりである。法はかくのごとき不徳義理勝手気儘を許すものではない」として、夫の離婚請求を棄却しました。

 

これは有責者からの離婚請求として有名な判例で、踏んだり蹴ったり判決と呼ばれています。この判例以来、有責配偶者からの離婚請求は認められないという前提ができ、長らく支持されてきました。

 

しかし、20年30年といった別居が続いた場合、形骸化した婚姻関係を放置されると、新たに生じた家族や子どもが法的に守られないという事態が生じ、問題となってきました。

 

そして、昭和62年、最高裁は一定条件の下で有責配偶者からの離婚請求が認めるという判決を出したのです。

 

判例A

最高裁判所

昭和62年9月2日判決

民集41巻6号1423項

12年間の同居中に夫婦には子どもができなかったため、夫は他人であるA子の子ども2人と養子縁組しました。その後に夫はA子と交際を始め、ついには妻から離れてA子と同居するようになりました。そして、夫はA子との間に子ども2人を儲けました。

 

妻は、夫から生活費という趣旨で与えられた不動産を売却したり、自ら働くなどして生計を立てていました。しかし、裁判時には無職で資産もほとんどありませんでした。

 

夫は、A子との同棲生活が36年に及んだタイミングで妻に離婚を請求しました。もちろん妻は離婚に反対しました。

 

裁判は最高裁まで続きましたが、最高裁は次のよう夫からの離婚請求を認める判決を出しました。

 

「有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び別居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、(中略)有責配偶者からの請求であるとの一事を持って許されないとすることはできない」

 

これは、踏んだり蹴ったり判決(昭和27年)以降、最高裁判所が有責配偶者からの離婚請求を認めた初めての判決です。

 

この判決以降、有責配偶者からの離婚請求が認められた例が出てきました。しかし、決して無条件で離婚が認められているわけではありません。どれも、かなり限られた条件となっています。それは、長期間の別居、未成熟子の有無、配偶者の今後の生活状況を考慮した判決となっています。

 

結論

基本的に、不貞行為や暴力を行った有責配偶者からの離婚は認められません。昭和27年と古い判例ですが、最高裁判所が出した有責配偶者からの離婚請求は認められない、という決定は現在でも大前提となっています。

 

しかし、その後の世の中の変化もあり、一定の条件を満たしている場合には有責配偶者からの離婚請求も認める判決が出てきました(昭和62年最高裁判決)。

 

ただ、離婚が認められるための条件は非常に高いハードルが定められています。判決は個々の場合に拠りますが、おおむね以下の3つを全て満たしている場合に認められる可能性があります。

 

有責配偶者からの離婚が認められる最低条件
  1. 長期間の別居(10年以上)
  2. 生活費を頼る子供がいない
  3. 相手の生活を経済的に困窮しない

 

ここで、@〜Bについて簡単に説明します。

 

  1. 長期間の別居(10年以上)
  2. 昭和62年の最高裁判決では36年の別居期間でしたが、それ以降の判決では短い期間でも認められています。8年程度で認められた例もありますが、おおむね10年以上となっています。

  3. 生活費を頼る子供がいない
  4. 生活費を頼る子供がいないという条件が必要です。生活費を頼る子供がいないとは、経済的に独立する様な年齢に達していなくて生活を親に頼っている年齢の者(大学生など)を言います。

  5. 相手の生活が継続可能
  6. 離婚によって、配偶者の生活が継続不可能になる場合は離婚が認められません。経済的な問題だけでなく介護なども当てはまります。有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、様々な面から相手が生活可能な状況を整える必要があるのです。

 

基本的には、有責配偶者からの離婚は認めらない!

 

ただし、下記の3条件を全て満たす場合は認められる可能性があります。

有責配偶者からの離婚が認められる最低条件
  1. 長期間の別居(10年以上)
  2. 生活費を頼る子供がいない
  3. 相手の生活を経済的に困窮しない