財産分与の相談事例

家族構成

イラスト_男性50代

 

 

夫A氏(50代)
会社員

 

イラスト_女性40代

 

(相談者)
妻Bさん(50代)
専業主婦

 

イラスト_成人男性

 

25歳(長男)
社会人

 

イラスト_成人女性

 

23歳(長女)
社会人

 

私は、主婦仲間のCさん・Dさんといつもの喫茶店で話していた。

 

 

主婦仲間Cさん
「で、どうなの?
離婚の準備は進んでいるの?」

 

 


「う、うん。
Cさんに言われた様に準備進めてるよ」

 

 

この1年間、3人の話題はもっぱら私の離婚計画だ。

 

 

主婦仲間Cさんは、同い年でバツイチだ。
5年前に高収入の夫と離婚して、財産分与で大金を得た。
いまは、セレブマダムとして、大学生の娘とペットのプードルと一緒に暮らしている。

 

 

主婦仲間Dさんは、3歳年下でパート勤務。
子どもが独立してから夫と2人暮らしだが、完全に家庭内別居状態。

 

 

主婦仲間Cさんと主婦仲間Dさんが、私の夫婦関係に興味を持つのは当然だ。

 

 

主婦仲間Cさんは、自分の経験を伝えたいと思っていた。
主婦仲間Dさんは、いつか自分も離婚する時の参考にしたいと思っていた。

 

 

私が夫との離婚を決意したのは、約1年前だ。
元々プライドが高かった夫は、仕事がうまくいかなかった日は機嫌が悪かった。
酒を飲んで私に当たることで、ストレスを発散していた。

 

 

結婚当初はまだマシだった。
機嫌の悪い日など、年に1,2回ほどだった。

 

 

だが、40歳を過ぎてからは、機嫌の悪い日が増えて行った。
会社では、40を過ぎると出世コースに乗っているかどうか完全に分かれてくる。
夫は、ある大きなプロジェクトでの失敗がきっかけで出世コースから外れてしまった。

 

 

50歳になる頃には、毎日酒を飲んで妻に当たるようになった。
10年以上前に散々叱りつけていた部下が出世して、なんと夫の上司になってしまったのだ。

 

 

プライドの高い夫は、そんな現実を受け入れられない。
しかし、家族の生活のために、その元部下の元で働かざるを得なかった。

 

 

幸いその元部下は仕返しで夫A氏を叱りつけたりはしなかった。
だが、その元部下の大人な対応が、さらに夫の心を傷つけていた。

 

 

夫は、毎日酒を浴びるように飲んで、私に怒鳴り散らすようになった。

 

 

私は、最初は夫の辛さを受け止めていた。
夫は、どんなに辛くても会社に行って家族を支えている。
何を言われても、どんなに罵倒されても、夫に寄り添っていた。

 

 

だが、さすがに毎日続く暴言には耐えられるはずがない。

 

 

食欲がなくなり、体重が5キロも減ってしまった。
病気になることも増えた。

 

 

さすがにおかしいと気付いた主婦仲間の勧めで、精神科医に行った。
そこで私は、うつ病とPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。
日々のストレスが、私の精神を蝕んでいたのだ。

 

 

診断結果を見た主婦仲間2人は、言葉を失っていた。
そして、必死で私に離婚を勧めた。

 

 

今まで私は、別居も離婚たこともなかった。
そんなこと言ったら夫の期限がますます悪くなってしまう。

 

 

だが、主婦仲間2人は、そんな私に説得を続けた。

 

 

夫が異常なんだよ。
夫の元から離れるべきだよ。

 

 

最初は耳をふさいでいたBさんだった。
しかし、主婦仲間の強い説得で私は離婚を考えだした。

 

 

だが、専業主婦の妻Bさんは簡単には離婚できない。
離婚すると、仕事を始めなければ生活できない。
50代近い私は、老後のことも考え始めなければならない。

 

 

そうなると、お金は必要だ。
子どもは独立しているので、夫から養育費はもらえない。
年収も高くないし、そもそも払うことを期待できない。
そのため、財産分与だけが頼りだ。

 

 

主婦仲間Cさんは、私に離婚に向けたアドバイスし始めた。
財産分与できちんとお金をもらうには、何より準備が重要だ。

 

 

この1年間で夫の管理する銀行口座を把握できた。
2つの銀行と1つの証券会社に口座がある。
それぞれの支店名も把握した。

 

 

これで、夫が財産を開示しなくても、弁護士会照会か裁判所の調査嘱託で明らかにできる。

 

 

だが、財産について調べていると、あることが気になった。

 

 

夫は、あと6年で60歳となる。
夫の会社は60歳が定年だ。
そうなると、退職金が支払われることになる。

 

 

夫は、定年を迎えると38年間勤務したことになり、それなりの退職金をもらえるだろう。
婚姻期間中に増えた資産は夫婦共有のものであるならば、この退職金も財産分与の対象にしたい。
もし対象になるなら、約半分は25年一緒だった妻Bさんのお金でもある。

 

 

近い将来もらえる退職金はどうなるのか。
主婦仲間のCさんDさんに相談してみた。

 

 

主婦仲間Cさん
「私が離婚した時、まだ夫は40歳だったから退職金の話は出なかったなぁ」

 

 

主婦仲間Dさん
「Bさんの旦那さんはかなり退職金もらえそうね。
退職するのが目の前なのだから、是非欲しいわね。
一度、弁護士に相談してみたら?」

 

 

退職金は、大きな金額になる。
老後の生活のためにも適当には決められない。

 

 

私は、弁護士に相談しに行くことにした。

この事例の争点

この事例では、夫はあと6年で定年を迎えます。
夫A氏は、大学を卒業してから同じ会社で38年間働いてきたので、退職金はかなりの金額がもらえそうです。

 

 

ただ、定年退職が数年後に迫っているとはいえ現時点でお金は手元にありません。その場合でも、退職金は財産分与の対象になるのでしょうか?

 

 

退職間近の夫との離婚を考えている女性は、この問題は非常に気になるでしょう。

 

 

夫の中には、「まだ支払われてないからゼロとして計算すべき」と主張する人もいるかもしれません。しかし、退職金支払いの直前で離婚した場合と、退職金支払い直後に離婚した場合で、財産分与の金額が大きく異なるのはなかなか理解が得られないでしょう。

 

※図

 

もし退職金が財産分与となるとしても、様々な問題があります。

 

 

数年後に支払われる退職金は、まだ金額が決まっていません。その場合は、どうやって計算するのでしょうか?
さらに、定年まであと何年なら退職金を財産分与の考慮範囲となるのか?
また、数百万円にもなり得る金額を、退職金が支払われる前に払うことができるのか?

 

 

退職金に関する疑問は、非常に複雑なのです。

 

 

では、この事例に似た過去の判例を紹介します。

 

判例の紹介

判例@

名古屋高等裁判所

平成21年528月日判決

判時2069号50項

同居22年、夫が定年退職まで15年以上ある夫婦で、離婚に際して妻が夫の退職金の財産分与を求めた。

 

名古屋高裁は、『退職金と退職年金は同居期間に対応した部分は共有財産になる』という判断を示した。
ただし、定年まで15年以上あるため必ず受給できるとは言えないため、直接の分与対象とはせずに他の財産分与との考慮要素とした。

 

判例A

東京地方裁判所

平成11年9月3日

判例タイムズ1014号239項

同居26年、夫が6年後に定年退職予定の夫婦で、妻が夫が受け取る予定の退職金を財産分与として請求した。

 

裁判所は、
『将来退職金を受け取れる可能性が高く、将来受給する予定の退職金のうち同居期間に対応する分を算出し、利息等を考慮した上で離婚時の清算対象になる』
、と判断した。(利息を考慮して現在の価値に直して、それを2分の1とした)

 

判例B

東京高等裁判所

平成10年3月18日

判事1690号66項

同居16年、夫が2年後に定年退職予定の夫婦。

 

第一審・控訴審ともに、『退職金を受領した際にその約2分の1を支払うべき』としたが、妻からの分与もあることからそれらを考慮し、『退職金受け取り時に500万円を支払え』とした。

 

結論

退職金は、財産分与の対象となります。事後的に支払われる労働の対価であり、通常の給料と同じように配偶者の寄与も考慮されるので、財産分与の対象になります。

 

 

また、退職までの年月は、15年以上でも認められているケースがあります。ただし、職業などに拠るので、一律には決まっていません。
支払い時期や支払い額に関しては様々です。当事者の意向や経済状況など考慮して決められます。

 

 

判例@は、定年退職まで16年にも関わらず退職金の財産分与を考慮すべきとしています。ただし、受給の確実性は高くないとしているので、あいまいな部分を残しています。

 

 

判例Aと判例Bは、退職金の支払いを認めつつ、支払い時期を離婚時と退職金受取時とで異なっています。個々の事例で判断されるべき点です。

 

 

事例では、婚姻期間中に増えた資産は夫婦の資産であるならば、6年後に受け取れる予定の退職金は夫婦の共有財産であると言えるでしょう。そして、婚姻期間に対応する部分の約半分は、妻B氏が受けると権利があると言えるでしょう。

 

 

支払い時期は、離婚時か退職時かは双方の事情で決まります。離婚時での清算を希望しても、夫が離婚時に退職金の半分近い貯金を持っているとは限らないからです。

 

まとめ

退職金は財産分与の対象となる!
金額は、同居していた期間を考慮して決定される!
定年退職まで10年以上でも、財産分与の考慮対象とされ得る!
支払い時期は、離婚時か受領時か当事者の事情で考慮される!