夫が婚姻費用を滞納している…

  • 夫A氏

    40代半ばの自営業者。

  • 妻Bさん(相談者)

    40代前半の派遣社員。

  • 子どもは1人

    新卒の社会人。

 

よかった。
やっと、夫と離婚できそうだ。

 

 

夫とは長年別居状態だった。
その夫と、もうすぐ離婚できそうなのだ。

 

 

だが、妻Bさんは一つの不安があった。
それは、夫が滞納し続けている婚姻費用だ。
この6年間で、結局一度も支払われることはなかった。

 

 

6年間の滞納額はとても大きい。
100万円以上だ。
とても諦められる銀額ではない。

 

 

では、なぜ別居状態になったのか。
それは、6年前に遡る。

 

 

 

6年前の夜。

 

夫が風呂に入っている時、リビングに置きっぱなしの夫の携帯が光った。
どうやら、誰かからメールが届いた様だ。
妻Bさんは、どうしても気になって夫のメールを見てしまった。

 

 

だが、それは見てはいけないメールだった。

 

 

夫は、ある女性と頻繁にやり取りをしていた。
しかも、連絡や相談といった類のものではない。
完全に、大人の男女のやり取りだった。

 

 

夫は、その女性と頻繁に会っている様だった。
週に3回は、仕事後に不倫相手のマンションに寄っていた。
食事を共にしていた後、そのまま終電まで過ごしていた。
そして、たまに出張と嘘をついて、女性と旅行に行っていた…。

 

 

妻Bさんの、メールを読む手が震えた。

 

 

夫と不倫相手とのやり取りを一通り見ていると、夫が風呂から出てきた。

 

 

妻Bさんは、夫を睨みつけた!
そして、勢いで問い詰めた。

 

 

妻Bさん
「あなた!どういうつもり!?
なんで不倫なんてしているの!?」

 

 

夫は、一瞬驚いた表情を見せた。
だが、すぐに反論することなく、部屋をゆっくりと見渡した。

 

 

そして次の瞬間、
夫は冷たい目でつぶやいた。

 

 

夫A氏
「証拠はどこにある?
あと、勝手に携帯を見るなんて最低な女だな!」

 

 

妻Bさん
「あなたの携帯のメールに全て書いてあるじゃない!?」

 

 

妻Bさんは、夫に夫の携帯を投げつける。
夫は携帯をタオルで受け止めて、メールボックスを確認した。

 

 

そして、無表情で妻に言い返した。

 

 


「俺はそんなメールなどしたことない。
俺は絶対に不倫など認めない」

 

 


「嘘つくな!
いまこの目で携帯を…」

 

 

妻Bさんは、ハッとした。

 

 

妻Bさんは、夫の携帯を見て不倫のやり取りは知った。
だが、それをどこにも記録していなかった。

 

 

妻Bさんの携帯は、台所の食器の横に置いてある。
夫と不倫相手とのやり取りを、自分の携帯に転送もしていない。

 

 

何一つ、手元に証拠を確保していない。

 

 

夫が風呂から出てきて部屋を見渡していた。
それは、記録ができそうな物(妻の携帯など)の場所を確認していたのか。
そして、妻の手元には機械類がないので、夫は、夫はまだ証拠を取られていないと思ったのだ。

 

 

また、投げ返された携帯を受け止めて、真っ先にメールボックスを見た。
そして、メールはどこにも転送されていないのを確認して安心したのだ。

 

 

夫は、メールを見られたものの、妻の手元には証拠が無いことを確信した。
だから、どんなに妻が叫んでも、堂々と否定してきたのだ。

 

 

夫は必死に頭を回転させて、対応したのだ。

 

 

それから、妻と夫は激しい口論となった。

 

 

1年に何度かは喧嘩をしていた。
だが、この日の口論は今までの比ではなかった。

 

 

いつしか、激しい非難合戦となった。

 

 

妻は、夫の不倫とお金のケチさを非難した。
夫は、妻の家事の手抜きを非難した。

 

 

口論は3時間に及んだ。
この時、お互いに相手を心の底から憎ましいと思った。

 

 

 

次の日から、夫との別居生活が始まった。
夫が、引っ越し業者を呼んで、荷物と共に家を出ていったのだ。
妻Bさんと一人息子は、家に残された。

 

 

 

夫は、どこに行くかは言ってなかった。
だが、たまに息子とは連絡を取っているみたいだった。

 

 

息子が言うには、自営業の職場で生活しているらしい。
夫の会社は小規模だが、社長なので一部屋を住居スペースにするなど容易だ。

 

 

夫が職場で生活しようが、どこで何をしているか全く気にならない。
妻Bさんにとって、もはや夫はどうでもよくなっていた。

 

 

 

夫が出ていって1か月程たったころ、妻Bさんは生活への不安に直面していた。

 

 

あいにく、夫と住んでいた家のローンは無いので、家賃はかからない。
両方の両親が、相続の意味も込めて買い与えてくれた家なのだ。

 

 

だが、派遣社員である妻Bさんだけの給料では生活が大変だ。
しかも、来年からは息子が大学に行くかもしれない。
今より余計にお金がかかる。

 

 

困り果てた妻Bさんは、弁護士に相談しに行った。
妻Bさんが状況を説明すると、弁護士は夫へ婚姻費用を請求することを勧めた。

 

 

別居していても、婚姻関係にある限り年収の高い側(主に男性)は、妻に生活費を支払わなければならないのだ。これを婚姻費用制度と言い、女性が別居する際に強い味方となる。

 

 

こんな制度があるなんて!

 

 

妻Bさんは、婚姻費用がいくらになりそうか調べた。

 

 

婚姻費用は、算定表から簡単に算出できる。
夫婦双方の前年度の年収と、子どもの数・年齢を基にして計算する。

 

 

婚姻費用の条件
夫A氏の前年度の年収は、自営業で700万円。
妻Bさんの前年度の年収は、派遣社員で250万円。
子どもは、17歳の息子が1人。

 

 

算定表を使うと、婚姻費用と養育費はすぐに算出できた。
婚姻費用は、毎月10〜12万円。

 

さっそく、夫に婚姻費用を請求しよう。
金額は、間をとって11万円を請求しよう。

 

しかし、夫からは返事はない。
夫の携帯やメールに何度を連絡しても、返信は無い。

 

もし夫が会社員だったら、給料を差し押さえることができた。
しかし、自営業なので差し押さえは難しい。

 

 

結局、妻Bさんの派遣社員の給料で生活するしかなかった。

 

 

 

別居開始から、6年が経とうとしていた。

 

 

息子は無事大学を卒業した。
妻Bさんは、とても晴れやかな気持ちだった。

 

 

息子は、ついに社会人となった。
私も、そろそろ夫との籍を抜いて、きれいに一人になろう。

 

 

だが、そもそも6年間も夫は婚姻費用を支払っていない。
6年×12か月×11万円=計792万円。

 

 

おそろしい金額だ。
夫は、これを支払わずに逃げるのか。

 

 

だが、長年に渡って支払わなかった婚姻費用の滞納は、後から支払わせることはできるのか。
かといって、老後の安定した生活を考えると、諦めるわけにいかない。

 

 

妻Bさんは、800万円近い滞納額をなんとしてでも夫に払わせたいと思っていた。

この事例の要点

夫婦には、共に協力して生活しなければならないという義務があります。婚姻費用制度は、この義務を金銭面でサポートする制度です。

 

 

そのため、例え別居していても、婚姻関係が続いている収入の高い側(主に夫)は、妻に生活費として婚姻費用を支払わなければなりません。

 

 

しかし、世の中の全ての人が素直に婚姻費用を支払うとは限りません。

 

 

別居するほどの仲が悪いので、支払う側は大きな抵抗を感じるでしょう。そうなると、例え制度として存在していても、きちんと支払いが行われるとは限りません。

 

 

事情があって支払うことができない人もいるでしょう。
しかし、最初から支払いを拒んだり、途中で支払いをストップさせてしまう人もいるでしょう。

 

しかし、受け取る権利者(主に女性)にとって、婚姻費用は生活する上で非常に重要です。子どもがいる専業主婦であった場合など、婚姻費用がなければ生活がかなり厳しくなるでしょう。

 

 

もちろん、婚姻費用が支払われない場合は、夫の会社の給料を一部差し押さえるなどできます。しかし、勤務先が分からない場合や財産を切り崩して生活している場合は、差し押さえは難しくなります。

 

 

夫が婚姻費用を支払わない場合、時間が経つにつれて婚姻費用の滞納額は増えていきます。
その場合、女性は支払いを受け取れなかった分は、どうなるのでしょうか。

 

 

では、この事例に似た過去の判例を紹介します。

 

過去の判例

 

判例@

東京地方裁判所

平成9年6月24日

判例タイムズ962号224頁

入籍後25年間同居生活していたが、ある時から夫は妻に再三暴言を浴びせるようになった。その後、夫は妻に生活費10万円しか渡さなくなり、翌年には家庭内別居となった。

 

その後、妻と夫がお互いに離婚と財産分与を求めて提訴した。妻は、婚姻費用の不足分も求めていた。

 

東京地裁は、「婚姻関係が破たんした後においても、未払いの婚姻費用の請求権は認められる。離婚に際しての財産分与において、未払いの婚姻費用を考慮することは可能である」として、未払いの婚姻費用を財産分与と合わせて清算することとした。

 

判例A

東京家庭裁判所

昭和48年8月1日審判

家裁月報26巻4号62頁

夫(医師)が不倫相手と同棲を始めたことがきっかけで、それ以降、妻子とは16年間別居状態となった。その間、夫は子どもの学費以外の生活費を負担しなかった。

 

 

裁判所は、
・「夫は医師として標準的家庭以上の収入を得ていながら、別居期間中、妻子に要した婚姻費用につき我関せずの態度を取り続け、その分担義務を免れていた」
・「夫の資産は妻子の犠牲の下に形成されたと評されてもやむを得ない、(中略)、財産分与の手続きにおいてその清算を図るのが相当である」
として、婚姻費用の滞納分は財産分与で清算することとした。

 

結論

過去の判例から、滞納した婚姻費用は財産分与での清算が命じられています。

 

また、判例Aでは別居期間が16年と非常に長期です。この場合は婚姻費用の滞納額も多いため、実際は財産分与という方法しか残されていません。

 

ただし、婚姻費用は、権利者(主に妻)が義務者(主に夫)に請求しなければ支払い義務が発生しません。そのため、別居した際には、速やかに婚姻費用を請求するようにするべきです。

 

滞納した婚姻費用は、財産分与でまとめて清算できる!