夫が私所有の家に住み続けている…
夫A氏(30代)
会社員
(相談者)※別居中
妻Bさん(30代)
専業主婦
※母と同居
4歳(長男)
幼稚園児
※母と同居
1歳(長女)
保育園児
あぁ、最悪。
夫は、いつまであの家に住み着くつもりだろうか。
あの家は、私の家なのに。
このまま出て行かないつもりか。
夫とは、4年前に結婚した。
結婚後は子どもに恵まれ、幸せな家庭を築いてきた。
だが、2人目の子どもが生まれた頃から、夫との関係は崩れていった。
夫は暴力を振るうようになったのだ。
夫は、昔ながらの亭主関白だ。
仕事には精を出しているが、家の事はすべて私に任せきり。
家事も育児も、夫はほとんど何もしない。
私は、毎晩子どもの世話をしていた。
寝る間も無く、育児に専念していた。
だが、夫には子育ての難しさが分からないのだろう。
試行錯誤している私を横で見て、うまくいかないと怒号が止まらない。
最初、私は夫に反論していた。
私
「あなたがやってみてよ!
絶対うまくできないんだから!」
だが、夫が子供の世話をすることは無かった。
リビングのソファに座って、私があやすのを見ているだけだった。
ある夜、私は長男を寝かせようとしていた。
だが、夜の10時を回っていてもなかなか寝てくれなかった。
寝室に行ことしない長男と話していると、夫の怒りが爆発した。
夫
「そいつ、なんでまだ寝ないんだ!?
お前、早くなんとかしろよ!」
大人と違って、子どもは素直に言うことには従わない。
夫には、子どもの寝かしつけの難しさは分からないのだろう。
妻(私)
「ほら、〇〇君。
まだ起きてるからお父さん起こってるよ。
早く寝ようね」
しかし、長男はまだ寝ようとしない。
それどころか、これから絵本を読みだそうとしている。
その時、一瞬意識が飛んだ。
それと同時に、頭に痛みが走った。
何が起きたのか分からなかった。
だが、目の前にはさっきまで夫が読んでいた本が転がっていた。
夫を見ると、夫の目は真っ赤だった。
そして、今まで見せたこともない形相で睨んでいた。
私は、怖くて何も言い返せなかった。
それから、何かあると暴力を振るうようになった。
本やスマホはよく飛んできた。
コップやお皿が飛んでくる時もあった。
体中、アザだらけになった。
ある日、夫の投げたコップが頭に当たった。
そして、頭から血が流れてきた。
その血を見て、私は家を出る決意をした。
私は、準備しながら家出の機会を伺っていた。
そして、夫が出張に行っている間に子どもを連れて実家に避難した。
帰宅した夫は、私の家出を知ったのだろう。
それから、連日連夜、何十回と電話をかけてきた。
だが、弁護士が警告を出すとピタっと止まった。
実家に戻ってから、1カ月が経った。
さて、これからどうしようか。
夫には離婚を請求しよう。
暴力の証拠写真はいくつも取ってある。
日誌などの記録も付けてある。
だが、一つ気になることがある。
夫がいま住んでいる家だ。
あの家は、私の所有権の土地・建物なのだ。
土地は、もともと私の父が保有していた田畑だった。
そこに、父が現金を出して家を建てた。
家が完成すると、土地ごと父から娘の私へ贈与したのだ。
そのため、あの家は私の特有財産であり夫に所有権は無い。
※特有財産:一方のみに所有権がある資産で、財産分与の対象ではない。
夫の暴力で実家に逃げ帰ってきたが、夫が私名義の家に住んでいるのが気にくわない。
私にひどい目を合わせたのだから、追い出したい。
こうなったら弁護士に聞いてみよう。
今後の作戦も相談しようと思っていたところだ。
法律の専門家なら、何かいい方法を知っているかもしれない。
離婚成立と私の家から夫を追い出す方法を聞きに行こう!
この事例の争点
妻Bさんは、夫の度重なる暴力から逃げ出しました。
夫の暴力については、写真や記録が残っているので離婚や慰謝料は認められるでしょう。
ただ、妻Bさんが今問題にしているのは、家のことです。
夫と住んでいた家は、妻Bさんが所有するものです。
妻Bさんの父の持っていた土地に、妻の父がお金を出して家を建てました。
そして、土地・建物を娘(妻Bさん)に贈与したのです。
贈与ということなので、土地・建物は完全に妻Bさんの所有です。
ただ、夫から実家に逃げてきたので、元の家には夫が住んでいる状態です。
つまり、妻の所有する家に夫が住み続けているのです。
妻Bさんは、夫に立ち退いて欲しいと言いました。
しかし、夫は立ち退く気配がありません。
完全に住み着いてしまっています。
家を出て行かざるを得なかった妻Bさんは、夫を立ち退かせることはできるのでしょうか?
では、この事例に似た過去の判例を紹介します。
判例の紹介
東京地方裁判所 |
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昭和61年12月11日 |
判例時報1253号80項 |
妻の父が購入資金を負担し、妻名義で建てた家で、夫婦は婚姻生活を送っていた。しかし、夫の妻に対する猜疑心・暴力・脅迫などにより、妻子が家を出て別居を開始した。 妻から夫に対して、建物の明け渡しと、賃料相当の損害金の請求を行った。
東京地裁は、妻の同居拒絶には正当な理由があると認めると共に、夫は本件建物の占有権限を有するものではない、として明け渡しと賃料相当額である月5万円の損害金の支払いを夫に命じた。 |
徳島地方裁判所 |
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昭和62年6月23日 |
判例タイムズ653号156項 |
多数回にわたる妻への暴力、妻の勤務先への嫌がらせ等、夫に破綻の主たる原因がある事案で、妻から夫に対して建物明け渡しを申し立てた。
徳島地裁は、妻の主張を認め夫に明け渡しを命じた。 |
結論
過去の判例では、妻が所有する夫が住み着いている場合、夫が原因で夫婦関係が破綻していると、家に住みついている夫に家の明け渡し命令が出ています。
したがって、今回の相談例では夫の暴力が原因で妻子は家から避難せざるを得なかったので、この判例と同じく夫に明け渡し命令が出るでしょう。
どのような場合でも認められるわけではない
今回の事例は、夫が原因で妻が家を出て行かざるを得ない場合です。
つまり、夫が有責者である場合だと考えられます。
しかし、別居開始の原因として、どちらか一方に非がある場合だけではありません。
価値観の違いや喧嘩の延長で別居する時もあります。
その時は、どちらかが有責配偶者とは言えません。
夫婦には共に助け合う義務があるので、相手の居住先を一方的に追い出すことはできないと判断される可能性もあるのです。その場合は、相手がその家に住んだままとなっても、明け渡しが認められない場合もあります。
夫が原因で別居した場合、妻は妻所有の家から夫を追い出せる!